小江戸日記

小江戸川越の情報や話題、日々のつれづれを綴っていきます。

吉田博展

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川越市立美術館に見に行ってきました、「没後70年 吉田博展」。こちらも昨年展示されるはずだったのがコロナ渦で延期されていたのです。

吉田博という人はこれまで知らなかったのですが、明治から昭和にかけて活躍した風景画家であるとともに後半生は木版画の制作に情熱を注ぎ、国内外の風景を描いた人だそうです。数年前に川越市立美術館で開催された川瀬巴水展以来、木版画で描かれた日本の風景に惹かれているので、今回の展示は楽しみにしていました。

本展は吉田の没後70年を記念して、企画された巡回展で、この川越市立美術館が最終展示会場となります。彼の残した木版画約150点を中心に、その生涯についても紹介されています。作品にも魅了されましたが、吉田博の人柄や生涯も、実に興味深いものでしたよものでしたよ。

yoshida-exhn.jp

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川越之櫻

吉田の作品は風景を中心として植物や子供など。やっぱり好きだな、この世界。すごく繊細で、肌感覚でその景色を感じられるようでした。特に水のある風景が好きですね。

 

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東京拾二題 亀井戸

 

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沼崎牧場のひる

吉田博という人は、当然のことながら、仕事には厳しかった人でした。版画作成は、絵を描く画家と「彫り」や「摺り」といった各工程を担当する職人が協働してひとつの作品を仕上げていくチーム作業ですが、吉田自身が彫りや摺りの技術・紙の特性などに熟知して、職人らに細かく入念な指示を出していたそうです。吉田の口癖が「職人を使うには自分がそれ以上に技術を知っていなければならぬ」というのだから、一緒に仕事する人は大変だったでしょうね。ごまかしがきかないから。

 

吉田が若い頃の美術界は黒田清輝が牛耳っており、黒田派の画家らは国費でフランスに留学することができたり、芸術の世界の主要なポストを独占したりしていたとのこと。まあ、どの世界でも閉じられたムラ社会というのは、そういうものですね。

そんな芸術界の風潮に反発を頂いた吉田は23歳で渡米し、美術館に営業をかけ、自分の描いた絵(その頃はまだ版画ではなく水彩画など)を売るのです!ろくに英語も話せないのに、ガッツあるね。若いし、自信もあったんでしょう。

以来生涯にわたって吉田はアメリカをマーケットとして意識していたようです。若い頃の水彩画の作品でも、日本の桜などを映しこんだ風景は「西洋人が好む日本」といった感があります。そしてその後の木版画においても「ジャパネスク」はひとつの大きなテーマだったように感じます。自分を活かせる市場を模索し、何が受けるのか、売れるのか、ということを考え対応するビジネスの感覚も持ち合わせた人だったのでしょうね。

色々、エネルギーがあるなあ。

※この辺のお話は美術館2階のアートホールで上映されている10分ほどのビデオ「痛快!吉田博伝」にまとめられていました。f:id:mkoedo:20211025084414j:plain

 

木版画の作品のテーマは、日本の風景が中心ですが、エジプトやインドなど外国に旅した時に出会った風景も多くて、それらはありきたりのモチーフでなく一期一会の心動かされる出会いだったのだろうと思わせる作品群でした。インドに行きたくなってしまいました。

 

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サンチの門

吉田博は自らも登山を好み、自然を愛した人でした。吉田博展のHP見に行ったらトップに彼の「けれども私は自然を崇拝する側に立ちたい。」という言葉が掲げてあって、これは本当にそのとおりだなぁと思います。まったく同感です。そして、吉田博の数々の作品に触れると、その自然に対する崇敬の念に嘘は無いと感じました。

没後70年 吉田博展 

■ 会期:2021年10月23日(土曜)から11月28日(日曜)

■ 会場:川越市立美術館 

  • 企画展示室(地下1階) 作品展示
  • アートホール(2階) 映像「痛快!吉田博伝」上映

■ 開館時間:午前9時から午後5時(入場は午後4時30分まで) 

■ 休館日:月曜日

■ 観覧料:一般    600円
大学生・高校生    300円
中学生以下    無料

身体障害者手帳精神障害者保健福祉手帳療育手帳をご持参の方、及びその介護者1名は無料
※「川越きものの日」にちなみ毎月8、18、28日に着物で来館された方は2割引
※「埼玉県民の日」11月14日(日曜)は観覧無料