小江戸日記

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映画『この世界の片隅に』

話題のアニメーション映画『この世界の片隅に』

昭和18年~20年の、広島市から呉に嫁いだ絵を描くのが好きな普通の女の子のお話。戦時中の話ではあるけれど、戦闘そのものを描く場面はほとんどなく、あくまでも主人公女性"すずさん"の毎日の生活を中心に描かれています。

着物をもんぺにリメイクしたり、少ない物資のなかでもやり繰りして楽しい食卓をこしらえたり。ごくごく普通の日常。そして、与えられた環境で最大限に工夫を凝らして毎日を豊かに生きているすずさん。

戦争をテーマにした映画を観る場合油断ならないのは、壮大な音楽や豪華キャストであの時代の悲劇を過剰に盛り上げようとする作品があって、そういった華麗なる広告的手法も別に嫌いじゃないのだけれど、中には抱き合わせ的に不要なイデオロギーまで刷り込んでこようとするものもあるということ。

逆にこの映画は何か特定の考えを押し付けるのではなく、むしろ自分で感じ、考えさせるような映画でした。

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観終えて一番に思うことはやはり、日々の暮らしを丁寧に生きることの大切さ。

思えば、どの時代に生きていても想定外のことは起きるものなんですよね。天気が急変するように惨劇は起こり、「一寸先は闇」を実感することが時としてあるものです。戦争に限らず災害や、経済危機など個人の力ではどうにもならない避けられないことは結構たくさんある。それでも必ず日常は続いていく。だから、このすずさんの「日々を楽しく豊かに生きる、身近な人を大切にする」生き方は、いつの時代にも通用する実際的で賢い生き方であるように思われました。自分に与えられた能力や境遇を受け入れつつ、自分が生きる環境を主体的に作り上げていくというたくましさや心身の張りを感じます。

エンターテイメントとして、観客を楽しませることを忘れていないところもこの映画の好きなところ。すずさんとすずさんの妹との軽妙な女子トークとか、すずさんの描くユーモアのあるイラストとかコトリンゴさんの優しい歌声などが印象に残ります。細かいところなんだけど、すずさんの「アチャー(≧▽≦)」って言う時の表情やしぐさが可愛くて私のツボでした。和む。こういったディティールによって、この映画がより愛着の持てるものになっている気がします。

激しい空襲や原爆投下、そして終戦と続く映画の終盤では戦争の圧倒的暴力やそれがすずさん達にもたらす惨事が描かれ暗澹とした気持ちにもなるのですが、それでも最後には希望や元気が湧いてくる映画でした。

★声を演じるのはのん(本名:能年玲奈

すずさんの声を演じているのは、のん。あの名作連ドラ「あまちゃん」のヒロインを演じた能年玲奈がのんに改名して臨んだこの作品。すずさんの呑気で明るい性格が、のんの声に合っていました。

彼女は「あまちゃん」終了後、テレビのトーク番組に出演しているのを見たきりで、その時もあまりしゃべりは得意ではないようで居心地悪そうな印象でしたが、今回この作品では彼女の健やかさや素直さといった魅力が存分に発揮されていましたよ。この人は他にちょっと見ないタイプのユニークな才能だと思うので、変に型にはまらず(例えば「不思議ちゃん」とかいわゆる「天然」みたいな枠に入れられてあっという間に消費されてしまうのではなく)、「あまちゃん」やこの映画のような彼女の持ち味が生きるいい作品に出演していって欲しい。

★お正月には川越スカラ座でも上映

2017年1月3日から川越スカラ座でも公開されます。この路地裏の古い小さな映画館で『この世界の片隅に』を観るのもいいもんだと思います。

 

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